「カクヨム」の利用規約-著作者人格権の問題についてメモ
角川とはてなが共同で立ち上げる新しい小説サイト「カクヨム」。
これの利用規約――著作者人格権の不行使特約について少し盛り上がっていたので、自分用にまとめてみようと思います。
少しだけ真面目な話なので、前提を共有しましょう。
●対象
「著作権」ってなんぞや? というレベルの人が対象です。
わたしは少しだけ著作権の勉強をしましたが「法律」が専門ではありません。難しいことはお話しできませんし、難しくないことも間違っているかもしれません。(間違えていたらこっそり教えてください)
あくまでもあなたがご自分で著作権を調べる時のたたき台としてご利用ください。
●とは言っても「法律」の話です。
モラルや「善」「悪」の話ではありません。
作品の権利どのように扱うか、ということに関しては創作をしている方なら皆さん意見をお持ちでしょうし、信条もあるかもしれません。
しかし今回扱うのは現在の法律や規則です。
それが良いともう悪いと思う、実態に即していないと思う、意見は様々でしょうが、それはまた別の話。
前提はここまで。
以下本文。
●著作権はふたつある
チョサクケンと一言に申しましても、その内容はふたつにわかれるとされています。
ひとつは著作(財産)権、
もうひとつが著作者人格権 ←今回扱うのはこっち
著作者人格権は大きく以下の3つ。
18条 公表権
作品を公表するかどうか、するとしたらどのように公表するかを決める権利。
19条 氏名表示権
作品を公表する際に、氏名を表示するかしないか、するとしたらどの名前を表示するかを決める権利(PNもOK)。
20条 同一性保持権
作品が勝手に改変されない権利。
著作者の意に反して切り張りしたり、書き変えたりするのはNG。
創作をやっている方なら感覚として分かるのではと思います。
こっそり作っていた作品が勝手に公開されたら嫌でしょうし、
PNで公開しようとしていたのに本名を表示される、
勝手に書き換えられる等されたら、激おこです。
また、著作者人格権の特徴は、他人に譲渡したり委託したりする事ができない、という点です。
つまり
「えー、公表? 氏名表示? 同一性保持? めんどくさいからその権利、お前にやるよ」←駄目
●不行使特約ってなによ
前述の通り、著作者人格権は他人に渡したり預けたりすることができません。
しかし、出版や流通する際に細かいところまでいちいち著作権者に承諾をとっていては業務が滞ってしまう……。
なので業務を円滑に進めるために細かく修正したりする分には許してちょうだい、みたいのが不行使特約です。
今回の「カクヨム」が規定しているのはこれ。
あなたの作品を場合によっては勝手に改変したり送信したりするかもしれないけど、文句は言わないお約束よ、ということ。
こういう風に書くと悪意が見え隠れしますが、好意的にとらえると……
あなたの作品を宣伝したり、あるいはメディアミックスなんかに使ったりするかもしれないけど、毎回全員に承諾をとっていられないから、ある程度は目をつむってくれませんか?
こんな感じかしら。
●今回のケース。他のサイトのケース。
さて、それでは話題になっていた「カクヨム」の利用規約を見てみましょう。
第10条(知的財産権)
- 当社は本サービスに含まれる情報、サービス及びソフトウェアに関する知的財産権を保有しています。本サービスに使用されている全てのソフトウェアは、知的財産権に関する法令等により保護されている財産権及び営業秘密を含んでいます。
- 会員が本サービスに送信した一切のコンテンツ及び情報(以下「コンテンツ等」といいます。)の著作権は、会員に帰属するものとします。但し、本サービスの提供、利用促進及び本サービスの広告・宣伝の目的のために、当社は会員が著作権を保有する本サービスへ送信されたコンテンツ等を無償かつ非独占的に掲載、配信、複製および派生著作物を作成することができ、会員はこれを許諾するものとします。
- 会員は、当社および当社から権利を承継しまたは許諾された者に対して著作者人格権を行使しないことに同意するものとします。
https://kakuyomu.jp/legal/tos より一部抜粋。
大事なところは赤文字。
簡単にまとめると、
- 君が作ったものは君に権利がある!
- ただし広告とか宣伝のために掲載したり複製するのは許してな!
- 著作者人格権は行使するなよ!
と言う感じ。
気になるのは2と3の繋がりでしょうか。
広告や宣伝のために使うから、著作者人格権は行使しないでね、
なのか
広告や宣伝のために使うから許諾してね。それはそうと著作者人格権は行使しないでね。
なのか。
何れにせよ利用規約の文章なのでもうちょっと細かく書いてくれていた方が安心できたかもしれません。
さて、他のサイトの利用規約も見てみようと思います。
小説家になろう-利用規約
- 第18条 テキスト等の情報の使用許諾等
- 本サービスを利用して投稿されたテキスト等の情報の権利(著作権および著作者人格権等の周辺権利)は、創作したユーザに帰属します。
- 当グループは、ユーザが投稿するテキスト等の情報を、本サービスの円滑な提供、当グループシステムの構築、改良、メンテナンスに必要な範囲内で、使用することができるものとします。
- 当グループが前項に定める形でテキスト等の情報を使用するにあたっては、情報の一部又は氏名表示を省略することができるものとします。
- 当グループが第2項に定める形でテキスト等の情報を使用するにあたっては、ユーザが設定している情報の公開の範囲を超える形ではこれを使用しません。
- 当グループは、作者の許可なく書籍等、インターネットまたはそれに相当するもの以外で小説の全文を提供できないものとします。
- 本サイトに投稿されたテキスト等の情報は、当グループ以外のサイトからの直リンク・当グループ以外の外部ランキングサイトや小説検索サイトでの紹介(ランキング)・雑誌や本での紹介等が行われる可能性があり、作者はこれに同意するものとします。
http://syosetu.com/site/rule/ より一部抜粋
大事なところは赤文字。
ざっくりまとめると
- 君が投稿したものは君に権利がある!
- でも、「なろう」のサービスやシステムの構築のために使用するのは許してね。
- ↑のためにテキストを使用する時、名前を省くのを許してね。
- でも、公表権はちゃんとまもるよ!
- 外部のサイトや雑誌で紹介されることがあるかも知れないけど同意してね!
こんな感じ?
「著作者人格権に踏み込むことがあるけど……こういうときだけだから許してね!」
カクヨムと比較すると細かく書いてある感じです。
●まとめ
他のサイトの規約もいくつか見てみましたが、著作者人格権の不行使に関する記述があるものもあります。
例えば「novelabo」
https://www.novelabo.com/site/terms
第五条辺り。
今の所、不行使特約に関して「投稿サイトでは」大きな問題が起こっていない(可視化してない?)ようなので、必要以上にびくびくする必要もないかなと思います。
まあしかし、著作権の問題は他人事ではないので、勉強しておくにこしたことはないでしょう。
個人的には、「カクヨム」の利用規約の著作者人格権不行使特約に関する条文がもうちょっと細かく、限定的になれば良いなと思います。